2268人が本棚に入れています
本棚に追加
そして短くなった頬の毛先をつまんで見下ろす。
「カナ、おまえ、大人の女になったんだな」
「え? なに、それ」
抱きしめている胸元からカナがきょとんとした目で耀平を見上げている。
短くなった黒髪の毛先は艶やか、指先にあるそこに耀平は思いを馳せる。
「初めて会った時、カナはこんな短い髪だった。十八歳だったな」
「そうだね。お姉さんが、大学の工房まで連れてきたんだよね。あの時は短かった」
「同じ髪をしているのに、さっき、短くなった髪の姿で立っているカナは……。大人の女だった」
あどけないショートカットの女の子。十歳も年下の妹になる女の子。ガラスを造る人になりたいと生意気な眼差しに、でも吹き竿をくわえた口元の色っぽさが忘れられない。
今日の妻は、あの時と同じ。白いシャツに素朴な綿パン、作業用のエプロンに、化粧気のない顔に、短い黒髪。なのにあの時の子と全然違う女が、そう花の匂いを漂わせるように女の体つきで女の雰囲気で、女の顔でそこにいた。
そんな大人の女の色香に、帰ってくるなり当てられてしまった。もうエプロンをといて、このまま抱き上げてベッドルームに連れ込んで、裸になった花の肌を食い散らかしたい。
「やだ、兄さん……やめて」
そういう手つきで、カナの頬や胸元を撫でまわしていた。
「子供じゃなくなったんだな」
うっとり任せてくれていたカナが、そのひと言でムッとした顔になり、耀平を突き放してしまう。
「もう、なんなのよ。そうやっていつまでもわたしを子供みたいにしないでよ」
「子供みたいなことが多いじゃないか。だからなのか……。大人みたいだと見えてしまったカナにふらっとしてしまった」
最初のコメントを投稿しよう!