【5】凜と咲く(耀平視点)

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 やわらかそうなティラミス、ショコラパウダーの上に、カナはトングでつまんだガラスのハートをつんと置いた。  耀平はギョッとしてカナを見上げる。 「はあ? カナが? まさか」  でもカナはにんまり。 「わたし、ぶきっちょだけど。お料理だってちゃんと出来るようになったでしょう。お菓子作りだってそうだよ」 「う、嘘だ。買ってきたんだろ。ガラスだけだろ、おまえが作ったのは」 「ほんと、失礼だよね。航も手伝ってくれたから、帰ってきたら聞いたらいいじゃない」 「いや、その。ほら二年前のあれが……」 「二年も経ったんだけど」  そうか。知らぬ間に大人になっているように、スイーツづくりも大人になっているものなのか。 「うまそうだな。うん、いただくとする」 「珈琲? 紅茶?」  珈琲かな。答えながら、耀平は呆然としつつフォークを手に取った。  知らない間に女になっているし、知らない間に大人になっているし、知らない間に……花の匂いに侵されている。  テーブルにはまた見覚えのないガラス細工が散らばっていた。春をおもわせるパステルカラーの花細工。今度はなにを生み出そうとしているのだろうか。  珈琲を淹れてくれる花南をじっと耀平は見つめる。シンプルな服装なのに、そこはかとない女らしい空気を纏って、花の匂い。大沢女史が感じていたものが、耀平にもよくわかる。  妻は、義妹は、飾らなくとも凛と咲いている。  そんな妻はいつもなにかを造っている。さきほど、ガラスのハートをそっとつまんでケーキに添えるその姿が、職人の目だった。夫を想う妻ではない職人の目。
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