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やわらかそうなティラミス、ショコラパウダーの上に、カナはトングでつまんだガラスのハートをつんと置いた。
耀平はギョッとしてカナを見上げる。
「はあ? カナが? まさか」
でもカナはにんまり。
「わたし、ぶきっちょだけど。お料理だってちゃんと出来るようになったでしょう。お菓子作りだってそうだよ」
「う、嘘だ。買ってきたんだろ。ガラスだけだろ、おまえが作ったのは」
「ほんと、失礼だよね。航も手伝ってくれたから、帰ってきたら聞いたらいいじゃない」
「いや、その。ほら二年前のあれが……」
「二年も経ったんだけど」
そうか。知らぬ間に大人になっているように、スイーツづくりも大人になっているものなのか。
「うまそうだな。うん、いただくとする」
「珈琲? 紅茶?」
珈琲かな。答えながら、耀平は呆然としつつフォークを手に取った。
知らない間に女になっているし、知らない間に大人になっているし、知らない間に……花の匂いに侵されている。
テーブルにはまた見覚えのないガラス細工が散らばっていた。春をおもわせるパステルカラーの花細工。今度はなにを生み出そうとしているのだろうか。
珈琲を淹れてくれる花南をじっと耀平は見つめる。シンプルな服装なのに、そこはかとない女らしい空気を纏って、花の匂い。大沢女史が感じていたものが、耀平にもよくわかる。
妻は、義妹は、飾らなくとも凛と咲いている。
そんな妻はいつもなにかを造っている。さきほど、ガラスのハートをそっとつまんでケーキに添えるその姿が、職人の目だった。夫を想う妻ではない職人の目。
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