①思い出の花嫁衣装

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「中身はあなたがよくご存じの、義妹さんですよ。致し方なく、致し方なく、母がそうしてきたように着ているだけです。倉重社長の妻としてね」  さらに義兄、いや、夫が優しく……、その凜々しい黒スーツ姿で胸の奥へ奥へと抱き寄せてくれる。 「いや、それでも……。よく似合っている。綺麗だ、カナ」  若い頃から天邪鬼のカナであっても……。愛する夫から言われると、やっぱり心が柔らかくなり、嬉しくなる。  そんな夫のネクタイの胸元にカナもそっと頬を寄せた。 「航の大事な日だもの。着たくないし行きたくないけど、ちゃんとする」 「はは。だめだ、上等な着物美人がいたと思ったけど、やっぱり俺のカナだった」 「もう~。兄さんは、なんなのよ! どいて。まだ支度済んでいないから」 「いや、もう少し、このまま……」  逃げていこうとした妻を、夫が腕に力を込めてまで引き留めた。  再びカナは、夫の胸元へと抱きしめられる。  今度の夫はふざけていなかった。どこか感慨深そうに、静かに愛おしそうにカナを抱きしめ、いつものように黒髪にキスをしてくれている。 「いい女だ。カナ」  今度は天邪鬼で逃げられなくなってしまった。  だって。愛する義兄が、夫が、こんなに離れがたそうに抱きしめてくれているから……。  たぶん。今夜もこの人はカナを深く愛してくれる。そんな気持ちが入り込んでくる抱擁だった。  で。天邪鬼がここで復活してしまう。 「兄さん、着物の脱がし方知らないでしょ」  途端に彼がふいをつかれた驚き顔で、カナを胸元から離した。 「ほんとにおまえは、ムードを壊してくれるな。昔から」 「……ごめんなさい。ちょっと恥ずかしかったんです」  素直になったらまた驚いた顔を耀平がする。
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