①思い出の花嫁衣装

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「ということで、奥ゆかしそうな着物美人にもそそられるが以上にはならない、俺の揺るがない妻の思い出ということだ」  揺るがない――とまで言われた。 「……以降のわたしは、それを越えていないと」 「まあ、語るなら、いろいろあるぞ。たとえばだな、藤の花が咲いた時におまえ……」 「やめて! やっぱ、いい。耀平さんの心の奥にしまっておいて!!」  言われると身に覚えがあることばかりだった。  あの時もわたし、兄さんの身体に乗っかって、女の自分から自分から、あんなことやこんなことをして……、最後にはしたないことをした記憶がある。カナはまた恥ずかしさで身体の体温があがったのがわかった。  なのにやっぱり、いまでも意地悪な義兄様顔で、耀平がにやにや笑って、座っているソファーからカナを面白そうに見上げている。 「飽きない妻で、俺は今日までだいぶ満足しているから安心しろ」 「汗、かいちゃったんだけど……。もう脱ぎたい」 「俺は着物を脱がす欲求はないが、俺の目の前でしとやかに帯を解いて着物を滑り落とし襦袢をゆっくり脱いで、そこから時間をかけてじらすように現れた裸体をやっと見せてくれて、いつものように俺に乗っかってくれてもいいんだぞ」 「もう、おしまいっ!! そんな具体的に想像しているなら、欲求あるんじゃないのっ」 「そうだな。やっぱり、そそられるから、今夜、やってくれ。あはは!」  四十過ぎたのに、いまだに夫にこうしてからかわられる。  義兄だった耀平は、五十を境についに倉重観光グループの社長を引き継いだ。  歳を取った父は会長職へ。だからカナは、いまは倉重社長の夫人で、会長の娘ということに。  ここ数年、誕生日を迎えるころになると、父が誕生会を開くようになった。
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