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「わ、お母さん。すてき!」
千花が着物を着込んだカナへと駆け込んできて、抱きついてくる。
「ほんと? これ豊浦のお祖母ちゃんからもらったの。千花も大きくなったらあげるから着てね」
「いいの? わたしも着たい!」
千花の大きく輝く黒目や目元は、目鼻立ちがはっきりしている耀平にそっくりだった。
でも心なしか……、千花の雰囲気は自分に似ているとカナはよく感じている。
それは、父親である耀平もよく感じているようだった。
「千花も、いい女になったじゃないか」
「ちょっと、兄さん。そういう言い方を娘にしないで」
「あ、そうだな……。かわいくなったな」
「お父さん、わたし、いつもはかわいくないの?」
妻に娘に辛辣に言い返され、せっかく褒めようとしていたのに、耀平が口をつぐんでしまった。
成長した娘の言い草が、最近、おまえにそっくりだぞ――と、耀平もよく言っている。
女どもにやりこめられて困る耀平さん――いまも苦労が絶えない義兄さんでお父さんだった。
でも、カナと千花は一緒に顔を見合わせちょっと笑ってから、お父さんへと向かう。なんだかんだいいながら、ワンピースの裾をふわりとさせながら、お父さんの隣へとぴったり座り込んだ。
「千花、お父さんがすてきと言ってくれているんだから」
「ごめんなさい。お父さん。お父さんも、今日は、いつもよりもっとうんとかっこいいよ」
そんな千花が、黒スーツを着こなす父親へと子供らしく抱きつくと、やっと耀平パパが嬉しそうに娘を抱きしめる。
「千花は、ママと一緒で黒が似合うな」
「わたしもお母さんみたいになりたい」
嬉しいはずの言葉なのに。耀平パパがこれまたちょっと困った顔をした。
「そ、そうだな。いい女になる、と思う」
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