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「ま、カナちゃんのことだからね。こうなるだろうとは思っていたよ、俺」
大人になってもカナには変わらず、甥っ子の時だったままの笑顔を見せてくれる航。
「だって。お父さんがずうっとお母さんのそばにいて連れてこなかったからでしょう」
そんな口を聞きながらも、お父さんの腕に抱きついて離れない千花。
「俺たちは、カナを中心に回っているからな。仕方があるまい」
やっぱり、意地悪な……
「もう、なにが中心よ。そもそもお兄さんが呼びに来て、そこに居座ったからでしょ。ほんっとにお兄さんは、むかしっから意地悪っ」
「もう何十年も義妹に言われ続けて、最近はなんか聞こえているのに聞こえなくなってきたな。俺も歳を取ったかな?」
「きっとそうよ。私が四十過ぎたということは、お兄さんは――、あら、還暦が見えちゃってきてなーい?」
「五十を超えたばかりだぞ。嫌なことをいう妹だな」
いつのまにか、くすくすと笑う声が聞こえてきた。
今度、にやにやとしてカナと耀平を見ているのは、子供たちだった。
眼鏡の凜々しい青年になった息子も、生意気でおませな女の子に成長した娘も、いつもの『お兄さんと妹』の言い合いを面白そうに眺めている。
そこでいつも千花が言うのだ。
「やっぱり。わたし。お母さんがお父さんのこと『お兄さん』て言うの好き。お父さんが『嫌な妹』っていうのも好き。その言い方をした時って、お兄さんが好き、妹のカナが好きって顔をしているんだもん」
最後に娘がこういうのもよくあることで、その時になって、ふたりはやっと我に返って、元の『お母さん』と『お父さん』に戻ろうとする。
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