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クールな顔つきで大人の落ち着きを備えた男になったのに、航もこんな時は妹と一緒にケラケラを笑いだす。
「ほんっと千花の言うとおりだよ。俺なんか、子供の時から『お兄さん』と『カナ』だったしね。なーんも変わんないね。社長さんになっても、社長夫人さんになっても」
そんな甥っ子に、カナも言い返してやるのだ。
「航こそ。今日はしっかり挨拶しなさいよ。倉重ガラス工房の社長を引き継ぐんだから」
「はーい。カナちゃんほど、俺、がっちがちに緊張しないよ。カナちゃんはガラス以外だと、めちゃくちゃ緊張しいだもんね。俺、知ってるよ。三者面談の時とかさあ」
「もう~、何年前の話よっ。ちゃんとお母さんしますからっ」
結局――。カナという妻、母、叔母(継母)を中心に、家族が楽しそうに笑い声を立てる。
それならそれでいいの。
外では厳つい社長さんでも、外では懸命に倉重の跡取り息子としてクールに構えている若社長さんも。ここでは素顔で笑ってくれていたらいいの。
そして、これから花咲くだろう娘……。のびのびと大事に育てて、でも、しなやかに折れない花にしたい。
カナという女性の願い。夢がここにある。
✿ ✿ ✿
父、雅晴の誕生日会は、自社が経営する湯田温泉の料亭旅館で開かれた。
毎回のこと、父がホール壇上でマイクを持って挨拶をする。
会長となっても、ますます威厳ある王者の風格をもつ父が、スーツ姿で招待客に、それでも笑顔で明るい挨拶をする。
「本日は、この会を機会に、皆様にご報告があります」
父、雅晴がその言葉を発すると、壇上に夫の耀平と息子の航が上がっていく。
父の隣に、婿養子の息子と、孫が並んだ。
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