②守られた息子

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 千花もカナの隣にいて、そんな父と兄の姿をお喋りもしないで静かに神妙に見守っている。  カナはすぐそばにいる千花をそっと抱き寄せる。二人でお兄ちゃんが挨拶をする姿を見上げる。 「倉重航です。このたび、父が経営をしておりました『倉重ガラス工房』を引き継ぎました。まだ若輩だと重々承知でございます。皆様からのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。思いは父とおなじです。職人を守る仕事をしていきたいと思っています。そして、皆様の手元に、日常を彩る品をお届けしていきたいです。いずれ、父の元でさらなる精進が必要だとはわかっておりますが、ここからを、今後の倉重を支える仕事のスタート地点といたします。よろしくお願いいたします」  立派な挨拶に、やっぱりカナは思わず涙ぐんでそっとハンカチで目元を押さえてしまっていた。 「お母さん、お父さんもお兄ちゃんもかっこいいね」 「うん……。素敵。さっきまで意地悪だったけど……」  千花がやっぱりいつものお母さんとホッとしたのか、笑って抱きついてきた。  挨拶が終わると、雅晴父が『堅苦しいご報告はおわりです! ここからは和気藹々、たのしい誕生日会。食べて飲んでお喋りをしましょう』と明るく言いのけると、会場の空気もほっと和らいできたのをカナは見る。  だが、会食が始まると、みなが花南のところに集まってくる。 「まあ、花南さん。おめでとうございます。今度は息子さんが工房を支えてくださるんですね。頼もしいですわね」 「おめでとう花南さん。息子さんが職人として大事にしてくださるとの言葉、感激いたしましたよ。航さん、立派な青年になりましたね」 「おめでとう、花南さん……」  来る人来る人が花南にお祝いの言葉を届けてくれる。
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