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それにも花南は楚々として「ありがとうございます」と、ひとつひとつ丁寧にお礼を述べる。
そんなとき、カナはふと思っている。
私……、ちゃんと社長夫人で、若社長になった息子の母親としてちゃんとここにいられるんだなあと。
十数年まえの自分からは考えられない状態だった。ただただ、シンプルな服装で汗まみれでガラスだけを見つめていたのに。
でも。夫の耀平と、その思いを引き継ぐ息子がいなければ。やはりカナは職人を続けていられなかったと思う。
そして、これからも。夫だけではない、息子だけではない、自分自身も職人としてあの工房を、そして娘として倉重を守っていかねばならないのだ。
壇上から耀平と航が降りてくると、そこにも人々が集まってお祝いの言葉を届けている。
気の利く夫が、集まった人々にスパークリングワインを配る姿もあった。ああいうところ、やっぱり義兄さんは心得ているなと感心して遠くからカナも見守っている。
お父さんとお兄ちゃん、そしてお祖父ちゃんと付き添っていたお祖母ちゃんも加わると、そこには人の輪ができていく。
「わたし、寛人のところに行ってもいい?」
「うん、いいわよ。ふたりでお食事しなさい」
千花がきょろきょろと探したのは、ヒロと舞の息子だった。
ひとつ年上の彼とは幼馴染みで、いつも学校が終わるとガラス工房で一緒に親の仕事が終わるのを待っている仲だった。
今日はヒロもスーツ姿、舞もドレスアップをしていて、舞の父親の岸田氏も招待客であったので、そこで父娘、婿と一緒に和気藹々と既に会食を始めていた。そこに小学生用のスーツを着て、今日はかっこよくしている寛人がいた。
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