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「行きましょう。お祖母様。これからも、料理と器のこと、客商売のあれこれ、俺にも厳しく教えてくださいね。俺、ちゃんとした社長になりたいんです」
航からお祖母様の手を取って、優しく肩をつつんでエスコートしていく。
やがて、女将も嬉しそうにして歩き出した。
カナはそれを三男さんと見送る。
二人きりにされ、カナはふと金子家三男の弦を見る。彼と目が合ったが、二人揃ってハッとする。ともに涙目になっていたのだ。
「わたしたちは、こちらへ、行きましょうか。弦さん」
「そうですね……」
互いに人目を避けるようにして、涙をともに堪え、ホール会場の外廊下へと出た。
少し歩いた先にある奥まった場所のソファーへとふたり一緒に腰をかけた。
こちらも落ち着いた品の良いスーツを着こなす彼が、着物姿のカナにそっと頭を下げてくれる。
たたずまいが洗練されているのは金子の男、亡くなった忍義兄と兄弟だなといつも思わせてくれる男性だった。
「母のために。ありがとうございました」
「いいえ……。その、どうしても見届けて欲しかったのは、わたしたちのほうなんです」
「顧客として招待を受ける心積もりで参りましたのに……。航君があんな明るく受け入れてくれて。でも、母は嬉しいと思います。だって……航君、あんなに……」
そこで弦も堪えられなくなったのか、ハンカチで目元を押さえ、今度は躊躇わずに涙を流していた。
「あんなに、兄貴にそっくりで……。生き写しとはこのことでしょうか」
カナももう涙を浮かべ、おなじようにそっとハンカチで目元を押さえる。
「ほんとうに。成長すればするほど、お兄様にそっくりになっていくので、私も嬉しくもあり、また亡くした時のことを思い返しては胸が痛みます」
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