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「気に病まないというお約束でしょう。兄が守ったからこそ、今日があるのですから」
また二人一緒に、涙しかでてこなくて黙り込む。
「母があんな嬉しそうに……。今日も一目みられたら満足だと言っていたのに」
「航は最初からそのつもりだったようですよ。今日は金子のお祖母様と一緒にお抹茶をするんだと張り切っていましたから」
「あの時は、大変でしたね。今日のように自然に母を受け入れてくれる日がくるなんて――」
あの時――とは、航の本当の出生、父親が耀平ではなく、金子の女将の息子が父親だったと知った時のことだった。
すべての秘密をさらけ出せたわけではないが、父親は航の出生を守ろうとして、脅しにきた男と刺し違えて他界したと説明している。
「いいえ。そちらの女将が毅然として航に『筋』を説いてくださったことで助かったところもあります」
「山中湖で修行をされた芹沢工房の親方さんが、しばらく預かってくれたのですよね」
「はい。航にとって、あそこは実家とは切り離された世界なので……居心地がいいようです。あと、そちらの親方がまた厳しい男性で、こちらも筋を通すことを譲らないお方なので、航も実家の人間ではない大人として聞く耳をもってくれたとかで、気持ちが落ち着いたようです」
「本日は、そちらの親方もいらっしゃっているとお聞きしているのですが……。そちらもあって、出向いてまいりました。母と共にお会いして、ご挨拶とお礼をさせてください」
今日はそんな目的もあり、密かな関係がある方々も呼び寄せていた。
航の成長にあたってお世話になった方たちに、航の節目を見届けてほしくて、招待を決めていた。
父の雅晴もそのつもりで招待をしてはどうかと勧めてくれたのだった。
だから、カナも素直に頷き、お互いに涙をなんとか乾かしパーティー会場に戻ることにした。
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