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「そんなことしていたら、親方の工房、潰れちゃうんじゃないの」
「はあ!? おまえ、航、なんだってこの野郎」
ああ、いつもの厳しい親方と、生意気な航が、既にやり合っているとカナは焦った。
なのに。その間に、女将がやんわりと入っていく。
「芹沢さん。この子の気持ちもお察しください。航さんにとって、そちらの工房は大事な場所ですから、萩と山口の工房ともども守りたいという気持ちなのですよ」
「それは……」
「その節は、本来なら血縁のわたくしどもが向き合わねばならないことでしたのに、芹沢さんにお任せしたこと申し訳なく、またそのお広い懐で孫を守って導いてくださって、ありがとうございました」
航と並んで座っていた竹のベンチから、女将がそっと立ち上がり、深くお辞儀をした。
当然、芹沢親方が当惑している。彼にとっては、『いつか、この少年はここにくる』と覚悟してくれたことでもあったので、お礼を言われても困るようだった。
そこへやっと、カナは息子と女将と親方がいるそばへと歩み寄る。
「親方、こちらでしたか。ご紹介はもう必要ないようですね」
「花南、探したぞ。知らない人間ばかりなのに、勝俣のやつ、そちらの山口工房親方のヒロ君と親しくなっているもんだから、話が尽きぬようで動かなくなってしまったんだ。庭にでも出て、一人になろうとしたら、航がいて――」
航と女将がいるところにちょうどさしかかり、きちんと航から紹介してくれたということだった。
「あの、金子の三男です。母と共にお礼を伝えたいと常々思っておりました。兄が遺した子をお守りくださいまして、ありがとうございました」
三男の弦も時を逃すまいと、花南の隣に並ぶと、目の前にいる親方に深々とお辞儀をした。
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