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航も神妙な面持ちでうつむいているが、必死に泣くのを堪えているようだった。
その航が急に顔を上げて、眼鏡の面差しで笑顔を見せた。
「俺、女将さんも、弦叔父様も、芹沢親方も。勝俣さんも……。ヒロ君も、舞さんも、そして、カナちゃん、お父さん……。豊浦のお祖父ちゃんにお祖母ちゃん、仙崎のお祖母ちゃんも。こんなにたくさんの人に大事にしてもらってきたんだって思っている。だから、俺、カナちゃんがいつか言ってくれた『理』で生まれ出ただけのことだから、ここまで引っ張ってきてくれた皆さんの『愛』に、これからも応えてきたいと思っています。今日まで、俺の行く末を見守ってくださって、ありがとうございました。大丈夫です。俺は、父や母、そして倉重の家のために、まっすぐ生きていきます」
もうカナは気絶したくなるほどに……、感動していた。
姉さん、忍お兄さん。航はまっすぐに大人になって、これからも生きていきますよ。
そう伝えたい。そして、ここにいる航を見守ってきた大人たちに、きちんと航は応えられる青年になれたと、カナは安堵している。
金子の女将も弦さんも、もうみな涙をハンカチで拭っているのに。ひとり、どうしようもなくぐちゃぐちゃの顔になった人を見てカナは仰天する。
それは航もだった。
「え、え、ちょっと……親方……」
「この、ばかやろうめ……、泣かすんじゃねえよ……立派になりやがって」
「え、どうしよう。カナちゃん。まさかの親方がいちばん号泣しちゃってる!」
「珍しすぎて、わたしの涙が止まっちゃったわよ。もう、親方ったら、歳を取られたんですね」
ご自分のハンカチもぐちゃぐちゃになっているので、カナの予備のハンカチを手渡した。
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