③母親の意地

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「あ、いたいた。親方、探したんですよ」  兄弟子の勝俣先輩も庭に出てきた。  なのに親方がぐちゃぐちゃの顔になっているので、こちらもぎょっとしている。 「え、え。花南、なんかあったのか」 「えー、まあ……、その……、航の感謝の言葉に大号泣中です」 「あー、やっぱり涙腺崩壊しちゃったかー」  勝俣先輩が面白そうにして、カナに教えてくれる。 「親方も歳なのかな。あれでも最近ちょっとのことで涙もろくなってさ。さっきも、航の就任挨拶を聞いて、目がうるうるしちゃって外に出ていったくらいだからな」 「え、そうだったんですか」 「そうそう。ムリムリ。本人の前で厳しい顔を整えたって、今日は号泣すると俺は思っていた」  親方と二人三脚で工房を支えてきた先輩が明るく笑った。  今も気の良い兄弟子で、カナもたまにガラスの相談をしたり、まめに連絡を取る職人のひとりでもあった。  そんな勝俣先輩がきたついでに――と、カナはそっと彼の腕をひっぱり、庭の奥へと向かう。 「なんだよ。花南」  夏の青もみじがさざめく水池の近くで、彼と二人きりになる。 「本日は来てくださって、ありがとうございました」 「いや……、こちらこそ。招待をしてくれてありがとう。特に親方が、こんな会食パーティーなんて好きではないのに、そちらからの招待状がきたら即決で出席を決めたほどだったよ。航の節目を見たかっただろうし、嬉しかったんだと思う。俺まで、ありがとうな」 「ご一緒のほうが、親方もお一人よりかは楽しめると思いましたし、それに、私も徳永も、勝俣さんとは今後も職人としての情報交換をしていきたいので、お話をしたかったものですから」
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