③母親の意地

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「……わかった。俺もそうしてくれたら助かる。うちは子供ができなかったんで、嫁さん実家のぶどう農家を手伝いながら、嫁さんが俺を支えてきてくれたから辞めずに済んできたけれど。職人が食っていくというのは本当に大変なことだからな。やっぱりバックアップの資金力があることに越したことはない。そちらとご縁があって、良かったと俺は思っているよ」 「あの時、わたしのような流れ者の女を、世間知らずだったわたしを、育ててくださった工房というのもありますが、金賞や銀賞がだせる力がある工房です。その創造性と技術を、夫も航もなくしたくないと思っているんです。私も徳永もです。できれば、倉重と提携していただけたらと思っています」 「わかった。ありがとう。花南」  カナもほっとして、思わず顔をほころばせていた。 「母親だな。すっかり」 「いえいえ、名ばかりで。未だに義兄にも航にも、カナだから、カナちゃんだからできなくて仕方がないかなんて言われますしね」 「そんなん、照れ隠しの口だけだろ。でもさ、思うな、俺も。親方は家族を一度手放してしまった男だから、余計に、航が息子みたいに思えるんじゃないかなって俺は感じている。俺もだけどな。子供ができなかったから、航が来たら、それこそ甥っ子が来たみたいな気分になっちゃうしな」  だからこそ。航にとって居心地のよい場所になっていたのだろうとカナは思う。  親方がもうひとりの父親のように厳しくして、勝俣先輩がおじさんだか兄貴のようにして、おおらかに接してくれたからだとカナは思っている。 「これまで、ほんとうに、ありがとうございました。あの時のこと、感謝しております」
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