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立派に倉重を支えてくれた婿養子の耀平を傷つけた男の母、娘を奪った男の母。
息子の結婚を台無しにした男の母、血の繋がりのない子供を押しつけ知らぬ振りをして生きていた男の母。
母ふたりは、そこは、航が許しても、自分たちも金子の女将の母親としての哀しみや痛みがわかっても。
そこは苦労をした息子、耀平のため、そんな生い立ちを背負わせた孫のために、その意地を張り通す覚悟だったのだ。
金子の女将もそう。息子がそちらのお家を守って死んだのに。そちらのお嬢様の不義でもあったのに。そう思っていることもあるのだろう。
距離が縮まらない母と宮本の姑と、金子の女将の間に交わらぬ冷たい空気――。
だが。花南は目を逸らさないで見つめる。
これが、母親の意地で覚悟なのだと。
今日は母の着物が重い。女が妻や母として生きてきた重みだった。
パーティも終わりになり、父の雅晴に夫の耀平、そして航が帰って行く招待客をロビーで見送る。
金子の女将が、父と、耀平と、航に、それぞれ挨拶をして、三男の弦と共に深々と頭を下げて帰ろうとしていた。
旅館の玄関を出て行こうとしていたその時。
そこに、着物姿の花南の母と、耀平の母が並んで待っていたのだ。
花南はハラハラして、思わず、父と耀平のところへとそっと駆けていく。
でも、その間に。母親三人が、そっと無言でお辞儀を交わしていた。
そして、それだけ。
でも、どちらも長く頭を下げている。無言で。
そこに言葉を交わせないからこその、母親どうしの意地も……、そして寛容な許しも見た気がした。
そのまま金子の女将が立ち去ると、待ち構えていたタクシーに息子と乗り込んで消えていく。
花南はもう、父と夫のところへ行く足を止めていた。
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