④螢川

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「千花、お母さんと手を繋いで。お父さんとも」 「え? なんで……」 「いいから、いいから」  着物姿のままのカナは娘の柔らかい手をとって握る。娘も訝しみながら、お父さんの手を握った。 「お父さんと千花とカナちゃんは、血で繋がっています」  変なことを言い出したカナに、航も夫もきょとんとした顔になる。耀平も涙が止まってしまったようだった。  そしてカナは、そばにいる航の手を取って、しっかりと握りしめる。 「千花とカナちゃんと航も血が繋がっています」  耀平、千花、カナ、航の順で手を繋いでいた。  まだなにも知らない千花が不思議そうに、カナを見上げて尋ねてくる。 「お父さんとお兄ちゃんもだよね。そこ、手を繋いで」  娘はまだ知らないから。お父さんとお兄ちゃんが手を繋いで、わたしたちは血の繋がった家族としてそこは仕上げだと思ったのだろう。  なのに。子供の目の前だから、そうすればいいのに。  耀平も航も、手を差し伸べたものの。躊躇っていた。  嘘がつけないのだ。カナもわかっている。  千花のためにつけばいい嘘なのに。  そう、星の数ほどついてきた嘘のはじまりになるのだ。  それでも、男二人の指先が近づいていく。  繋ぐのかな。それが貴方たちの答えなの? カナはそっと見守る。  すると。手を繋ごうとした男ふたりの指先と指先の間に、ほたるがすうっとすり抜けていった。  そこで男二人がハッとした顔になり、繋がりそうだった指先と指先が離れていく。  耀平から、航に向かって微笑んだ。 「負けないぞ。父親だからな。そうそうに全ては譲るものか。ガラス工房もへたな経営をしたらすぐに返してもらう。必死に守ってきた俺の俺だけの会社だったんだからな」
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