④螢川

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 航も耀平にむかって、眼鏡の顔でにやっと笑った。 「俺、やりたいことがあるから見てろよ。父さんがやらなかったことで職人を守っていくからな。ホテルを守っていくからな。倉重の家もだ」  そこで、父と息子が息が合ったように、手と手を掲げた。  手を繋ぐのではない。ふたりが若い父と小さな子供だったときからやってきたハイタッチだった。  最後は男二人で笑って、肩と肩を組んだ。 「もう、なんで手を繋がないの。それでわたしたち家族の輪ができあがるところだったのに。男の人ってわかんない」  千花のませた言葉に、また大人三人面食らって、でも次には笑い出していた。 「いいんだよ。千花。父さんと兄ちゃんは男同士。手は繋がない」 「そうそう。それが男同士ってもんなんだよ。千花」 「やっぱりわかんない。へんっ!」  偽るように手を繋がない。それなら手を繋がなくても、繋がる方法はいくらでもある。  それが、この父子の答えだとカナは思った。  夫と息子のまわりに、ほたるがすいすいと飛び交っている。  カナは思う。やっぱり、そこにいるのではないかと。  今日はあなたたちの息子が、あなたたちが願ったように、倉重の男として歩み出した日だもの。 ✿ ✿ ✿  その夜――。  いつものベッドルームで、夫の耀平は疲れたのか早々に眠りについていた。  カナも着物を着たうえに、母親としての緊張、そして様々な人に会ったり、懐かしいことをたくさん思い出して疲れてしまった。  夫と一緒にすぐに微睡んだ――。  だが、それは一時。  カナは深夜にふっと目を覚ました。  心から湧き上がってくるものがある。  わかる。あれが来ている。
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