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透明なガラスにのせる色ガラスの色も決める。
銀賞受賞作家と、銀賞金賞受賞作家のふたりがタッグを組んで制作をする。
しかもアシスタントは師匠の芹沢親方。
なにが始まるのかと、山口工房の職人たちが固唾を呑んでいる空気が伝わってくる。
それもおかまいなしに、カナと親方はガラスを吹く準備を始める。
太い色ガラス棒を取り出し、模様にするための欠片を金槌で割り砕いて準備をする。
その時、隣に並んで一緒に作業をしていた芹沢親方が話しかけてくる。
「俺なあ。あの時、ほんとうはがっかりしていたんだ」
「あの時? いつのことでしょう」
「相棒はどうすると聞いたときに、勝俣がいいと言っただろ」
親方の工房で、瑠璃空を作り始める時のことだとカナも思い出す。
「おまえと一緒に造りたかったんだがな。でも、当時のおまえが言ったとおりだよ。俺が一緒にやると、おまえは俺の技術に頼っただろうし、俺は余計なことをしたかもしれない。技術がおなじで作品に口を出す気もない勝俣を選んで正解だった。そうでなければ、もしかすると……、瑠璃空は違う仕上がりになって、銀賞は取れなかったかもしれない」
「それは、わたしもおなじですよ。できれば、親方とやりたかった……」
翡翠色と黄金色の棒ガラスの端を金槌で割り砕くカナを、親方が見下ろしている。
「やっと来たな。この時が。いつかと思っていた」
「わたしもです。いつか――と思っていました」
黄金色の欠片をひとつ、親方が抓んで真上に掲げ、工房のライトに透かして眺めている。
「俺も見たよ。昨夜、いつか花南が話してくれた、山口、一の坂川の源氏螢を――」
その欠片はいまから炎で溶けると命が吹き込まれる。蛍となって炎のなかで飛ぶのだ。
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