①娘のような

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①娘のような

※関連作 『恋すれば孤独』の登場人物も登場します 未読の場合、ネタバレなどご注意ください ⇒『恋すれば孤独』 https://estar.jp/novels/25964925/viewer?page=254 (今日まで恋、明日から愛 北の恋・オムニバス 第3話に収録) ------------------  小樽でガラスを吹き始めて何十年経っただろうか。  いつまで体力が保つだろうか。最近は視力が落ちてきて、疲れやすくなったと感じるようになった。  今年も新年の挨拶に、弟子から年賀状が届く。  この工房から独立した者、もっと性分に合った工房へ移った者、様々だったが、ガラス職人を続けている報告に安堵する。作品の写真を載せてくれるものもあれば、家族写真を載せてくる者もいる。  (きよし)自身、そのなかでも思い出深い弟子が何人かいて、そのなかでも唯一女性だった『倉重花南』がいまも心に強く残っている。  まだ二十歳もそこそこすぎたばかりのころ、質素な身なりで単身北国にやってきた女の子だ。  技が拙いのに感性が鋭く、潔の厳しい仕込みにも耐えて乗り越えてきた職人のひとりだった。  技が身につくと、あっというまに彼女の工芸作家としての道が開けた。  彼女を実家へと無理矢理に送りかえした後に、実家で開設したガラス工房で数年、自力で創作と生産を身につける。事情があってまたもや実家を離れてしまい、行き着いた次なる修行場は『富士・山中湖、芹沢ガラス工房』。そこで芸術性を見事に開花させた。  潔には、倉重花南は『一瞬で行き着いた』感覚だった。小樽から手放して、五・六年だったか。兄弟子たちも、『ほんとうに行きやがった』と賞賛し、多少の嫉妬も入り交じり、気もちを正された者も見受けられた。急にやる気を出した者、さらに修行に精神を入れ込む者、これまでのこだわりを捨てて新しい目線に切り替えた者も現れたほどだった。
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