③老人がいる

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 社長さんの趣味はカメラ撮影。いつも持ち歩いて様々なものを常に撮影しているので気にしていなかった。  これも花南の影響だった。彼女も常にカメラを携えていて、気になったものを撮影していた。彼女にとっての写真は『スナップメモ』という扱いで、目にしたものをメモ代わりに視覚的にカットしておくという感覚。出来上がった写真は彼女のインスピレーションのヒントとしているようだった。同時に、商品として人の手に渡っていく『ガラス製品』を記録するためにも撮影をしていた。 『あーこんな素敵な切子、親方のところから旅立っちゃうんだ。撮っておこう。親方にも写真できたら渡しますね!』  潔の切子作品を、いつもきらきらした眼差しで見つめてくれて、憧れるようにうっとりとしながらカメラで撮影してくれていた。  いまも花南が撮ってくれた写真は大事にまとめて、たまに見返している。  そんな花南が撮る写真に感銘した大澤社長も、カメラで撮影活動を始めたのだ。  徐々に社長さんも、あちこちのコンテストに応募するようになった。  趣味だからのんびり。落選してもあたりまえ。でもチャレンジはやめないというフランクさで、あれこれ撮影をしていたのは知っている。  いつも落選していたから、潔も自分が撮影されても、『いつもの社長さんの気楽な趣味』ぐらいに思って笑って流していたのを覚えている。  それが。入選――! 「親方の渋みが自然に出てるでしょう。わたし、この写真すっごい素敵と ひと目見ただけで思えたから、パパにこれ応募しなよって言ったの。そしたら、ほら、ほんとうに! だって親方が切子している姿は、かっこいいもん。それがちゃんと出てるの。見た人に伝わってるの!」
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