③老人がいる

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 一花はいきいきと潔に語りかけて、元気いっぱいきらきらとした笑顔で興奮している。  ああ花南もこんな顔をしてくれることがあったな。潔は若い女子大生の一花を見ながら目を細めた。  大澤家末娘の一花は、ご夫妻にとって遅めにできた末っ子お嬢ちゃんだったため、蝶よ花よでも好きなところに飛んで行けというふうに育てていた。イマドキ女子大生らしくお洒落で明るく、活発な女の子に育った。  いまは医療系の技師になるための大学に通っている。 「そっかー。一花ちゃんが選んだ写真でもあるんだね」 「そうだよ。パパ、ちょっと違うものをこれが良いと思って送っちゃうから、今回は私が選んであげたの」  なるほど。いい写真は撮るけれど、応募する作品の選び方がパパさんはダメだったのか。そんなところ、あの樹さんらしいなと潔は苦笑いをこぼす。  社長になるために育てられた資産家の長男さん。二代目父親が暴君だったとかで成人するまでの育ちには苦労があった人だ。それゆえに、恋愛観が歪んでいた。  女性を大切にするようやり手の母親にきっりち女性優位に育てられたが、彼が選んだ結婚は『契約婚』だった。子供が産めない長年の恋人をそばに愛人とし、家を支え出産をしてくれる女性を妻としたのだ。彼だからこそ、ふたりの女性の生き方それぞれを尊重し、大事にしていた。だが、やはり歪んでいる。『世の中、なにが喜びか』を素直に感じ取れない大人として育ったのだろうかと、潔は感じていた。  工房オーナーの夫、大澤の事業をすべて管理して経営をしている社長さんだから、社長一家でなにかが起きていると知っても、潔は知らぬ振りを続けてきた。ただのいち従業員だからだ。
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