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幸せそうなご一家としてまとまって、良かったと思える瞬間でもある。
このご夫妻もいろいろあった。潔はそれを黙って見守ってきた。
「ちょうどお茶タイムだったんだよ。ミルクティーをいれてあげようか」
「うん! 親方のミルクティー、ちっちゃい時から変わらなくて大好き」
また花南と重なる。こんなに明るい二十代女子ではなかったけれど、潔が煎れるミルクティーを喜んでくれた時の素直な笑顔が忘れられない。
この一花ちゃんもそう。『娘とは』そんな愛おしさをかんじさせてくれる存在なのだといまも思う。
「一花ちゃんひとりで来たのかな?」
「そうだよ。自分の車で来たんだ。『親方に知らせなくちゃ』って。私がいちばんに教えるんだってきちゃったの。お父さんとお母さんもあとで来ると思うよ。それまでここで待ってよー」
応接ソファーに座った一花は、テーブルにある切子食器を眺めている。
ガラス工房オーナーの娘だから、絶対に勝手には触ったりしない。
「わー、綺麗。ほんとに親方のグラスがいちばん綺麗。模様が素敵なんだよね。いいなー」
この子もガラスが大好きだ。花南と同じように瞳を輝かせてくれる。
「一花ちゃんの成人お祝いに作ってあげるよ。お兄ちゃんたちにもそうしてきたんだから」
「ほんと!? うわーどうしよう。何色にしようかな。真っ赤がいいかな! 親方が作ってくれるガラスなんて、超最高級じゃない!」
妻に捧げた色……。潔はふと思った。
でももし彼女と娘が生きていたら、お揃いにしていただろう。
『赤』にもいろいろある。緋色、朱色、珊瑚色。この子はどれを好むのか。それも楽しみだ。
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