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また夫妻が揃って『え!?』と声を上げた。ほんとうに揃った声色に揃った吃驚の表情。まさに長年連れ添った夫婦そのものだった。
そんなお二人を見ても、潔は心を揺さぶられている。
始まりはどうであれ、途中どんなことがあっても、歪であっても。互いに向き合って心をぶつけ合ったお二人は、いまはうまく合致することができる離れがたい夫妻となった。
夫と妻とは、このようになるものだということを、社長夫妻から教わった気でいる。
そんなお二人が息が合ったように、交互に潔に詰め寄ってきた。
「親方。それはつまりは、この工房を留守にするということですか」
杏里が目を丸くして驚愕している隣で、夫の樹も迫ってくる。
「俺の写真でなぜ、そんな気もちに!? いままでどんなに花南に会いに行ってはと勧めても、俺たち家族と一緒に倉重リゾートホテルへ旅行に行きましょうと誘っても来なかったのに!?」
潔が工房を留守にしない、空けない、弟子にも任せない。この工房を第一として尽くし、それを己の命のように大事にしてきた姿をいちばん知っている方たちだ。だから余計に驚きおののいている。
暢気にミルクティーを味わい両親を待っていた一花も、大人たちのざわめきに心落ち着かなくなったのか、その輪に入ってきた。
「どうしたの親方……。この写真になにかあったの?」
自分が選んで、父親の初受賞を招いた手柄を誇らしく思っていただろうに。その写真がさらに、これまで日常の変わらぬ位置に居続けたおじさんが変貌していく様を感じ取り、恐れているようにも見えた。
でも変わらぬ位置にいたおじさんは、今日から動き出すのだ。
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