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⑤ほっこりお嬢様
やってみればなんともないことを、臆病な男だからずっと物怖じしていた。何十年も!
飛行機での空の景色は最高だったし、離陸も着陸もどきどきわくわく。空弁は選ぶの迷うし、空港内を歩けば珍しい菓子がたくさん。いちいち立ち止まって時間はあっという間に過ぎたし、花南のためのお土産をたくさん買いすぎた。両手に各地のお土産の紙袋を沢山持って乗り込むバスで、地元の人々に『どこから来たのか』と何度も聞かれる始末。
見知らぬ人に話しかけられるのさえ楽しくて、『小樽から来たんです』といえば皆びっくりするし、山口に来てくれてありがとうとばかりに、地元でなにを見ればいいか食べればいいかをどんどん教えてくれた。
でも。なぜか急に緊張が襲う。
花南の実家、いまは彼女の夫が経営するホテルが豪華すぎて。フロントに立っている黒スーツの立派な男性が品格がありすぎて。普段着に近いラフな格好で来たじいさんは怖じ気づく。
それでもおずおずと近づき、心臓がばくばく動いているのを感じながらフロントに立った。
「あ、あの……」
「いらっしゃいませ。遠いところからお越しくださり、ありがとうございます。お疲れ様でした」
フロントスタッフの綺麗なお辞儀と美しい喋り方に、潔は恐縮する。
「お名前をお願いいたします」
「遠藤潔です」
「ありがとうございます。少々、おまちくださいませ」
すぐそばにあるノートパソコンからチェックをしているようだった。
彼がさらなる笑顔を潔にむける。
「ご予約、確認いたしました。お荷物をお預かりいたしますね」
彼のそばにいる若い女性へと目配せをすると、フロントは女性に任せ、佇まいが美しい彼自身がフロントから出てきた。
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