⑤ほっこりお嬢様

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 確かに。潔とふたりだけでお茶をするときは、かわいい一花と一緒にいるときとおなじように、あどけない顔で年相応の若さで楽しませてくれていた。  それ以外は……。影をめいっぱい背負って、ひたむきにガラスに向き合っていた重々しい花南しか記憶にない。  だがそう聞いて、潔もすぐに悟った。  ああ、幸せになったんだな。ほんとうに、彼女が背負っていたものがなくなったんだなと。本来の、あのあどけない女の子が、そのまま皆に愛される女性になって過ごしているのだと思えたのだ。 「こちらにどうぞ。花南さんは、遠藤様、親方さんから初めて会いに来てくださると、もう朝からそわそわしておりましたから。お知らせしたら、すぐに飛んでくると思います」  一面ガラス張りのティールームへ連れてこられた。  一歩入っただけで、金春色が一面に広がる景色に囚われ立ち止まる。  白浜と遠浅にずっと遠くまで広がる金春色の海、向こうの島へと一直線に続いている白波の筋――。花南が『潮と潮がぶつかると、浜辺から向こうの島まで一直線の白波のラインができるんです』と言っていたことも思い出す。  その景色を見て、潔はまた知った。 「花南のガラスとおなじです。彼女が醸し出す青や白に緑はこの色合いで……」  フロントの彼もふとガラス窓の向こうへと視線を馳せた。  毎日ここで働いている彼には、見慣れた風景なのだろう。 「お師匠さんにはわかることなのですね。倉重社長もよく言っています。小樽のガラスは薄氷のようだと……。北国を感じるのだそうです。暮らしている景色を敏感に感じ取るのは職人だからだと常々言っております」
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