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潔の切子は最高だといつも褒め称えてくれる耀平さん。彼のそんな気もちは従業員にも伝えているのかと、潔も嬉しくなりつい口元を緩めた。
素晴らしい海の景色をそばに、ガラス窓がある席へ。ゆったりしている真っ白な単体ソファーへと身体を沈める。とんでもなく贅沢な座り心地だった。
あー、非日常だ……。大澤一家が家族旅行に、毎年ここを選ぶわけがよく理解できる心地だった。
ウェルカムドリンクをひとつ選べるとのことで、さきほどのフロントの彼がメニューを差し出してくれる。
よくあるソフトドリンクが並んでいた。ウーロン茶にしようかと心決めかけた時、めずらしい名前のものに目が留まる。
「長門ゆずきち……?」
潔のつぶやきに、そばに付き添い待機してくれているフロントの彼が笑顔で教えてくれる。
「長門市オリジナルの柑橘です。カボスやスダチの仲間になります。最近は当ホテルでも地元の食材として取り入れております」
「こちらをお願いします」
かしこまりましたと、スーツをきちっと着こなしている彼がまた恭しくお辞儀をしてくれる。
もう、またわくわく。知らないものに出会うのは、こんなに楽しいことだったのかと初めて知る。
彼女も隣にいる。君と知らないことをいっぱい体験していきたい。
急に芽生えた気持ちだった。
北海道は柑橘の生産がないため、よけいに珍しい。
ここでしか体験できないことならば、もう体験していくしかない。
ゆずきちジュースが出てきて、わくわくしながらグラスを手に持つ。
ひとくちストローですすって『わ、知らない味と香りだ!』とまた大興奮。景色は綺麗だし、もう潔の機嫌はまさに上々。
「いらっしゃいませ。遠藤親方」
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