⑤ほっこりお嬢様

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 すっかりリゾート気分に浸っていると、懐かしい男性の声が背後から聞こえてきた。  グラスを置いて振りかえると、黒スーツを上等に着こなしている倉重社長がいた。  さらにそのとなりには、白いブラウスに上品な紺色のパンツスタイルの花南がいる。  久しぶりに会う娘のような彼女。潔は目頭が熱くなりそうだった。 「親方、いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ」  上品な奥様がそこにいた。そうか、やはりもう奥様なんだな。中年の女性になっている。なのに女の子の面影は残っている。  娘がお嫁に行って、そこで旦那さんと仲睦まじく支えあって暮らしている。幸せそうに。それが一目でわかった。  会うなり目を潤ませて言葉を発しない男を見て、耀平も花南も怪訝そうに顔を見合わせている。心配そうな顔を揃え、急いでそばに来てくれる。 「親方。どうかされましたか」  相変わらずによく気がつく耀平が、すぐに潔の顔を覗き込んでくれる。  花南もおろおろとした様子で、床に膝をついてまで潔の目線に下りてきて、案じる顔を見せる。 「お、親方? もしかして、初めての一人旅で疲れちゃったんですか? ど、どうしよう。だから、迎えに行くって言ったじゃないですか。わたし、小樽まで迎えに行きましたよ! もう~、ひとりで道外へ旅に出るのは初めてと聞いてびっくりしたんですよっ。今日だって、ちゃんとバスの乗り換えできるのかなとか、朝からもう心配で心配で……。お身体大丈夫なんですか!!? せめて富樫さんと一緒にとか……」 「お、落ち着け。花南、おまえが落ち着け」  旦那さんの隣でわたわたと狼狽えている花南。それを、お兄さんのクールな佇まいで落ち着かせようとする旦那さん。  そんな花南を見て、潔は笑う。ああ、あのあどけない女の子のままじゃないか――と。 「親方? なんで笑い出してるの?」 「いやあ。ほっこりお嬢様って言われてるんだと聞いて」
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