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「あっ! フロントの原田君でしょっ。彼なんですよ。わたしのこと『ほっこりお嬢様』とか的外れなこと広めたの」
急にぷんすか顔になる四十も過ぎた彼女を見て、また耀平が彼女をからかうように笑い出す。
「的外れじゃないだろう。ほっこりお嬢様で間違いない。航からもお墨付きだろ」
潔も続けた。
「しっくりしないと最初は思ったけれど。そういえば、小樽でも時々ほっこり女の子だったかもしれない」
男二人がそろって言いだしたので、花南がぎょっとしている。
「わたしのどこがほっこりだったんですか!」
「ミルクティーを一緒に飲んで、切子の写真を撮ってくれる。その時、ほっこりしていたよ。私は……」
花南が押し黙った。そして彼女も一瞬で表情を崩し、目を潤ませていた。懐かしい日々を、潔と過ごした日々を思い出してくれたのだろう。
彼女が『ひとりで頑張らなくちゃ』と肩肘を張っていた若い日々。辛い修行期間だったことだろう。北国の厳しい気候の中、お嬢様としての甘えをいっさい捨てて、単身で立ち向かっていた。
その中の、やわらかなひととき――。
潔は手に持ち続けていた紙袋を花南に差し出す。
「花南が好きなもの、買ってきたよ」
小樽老舗の洋菓子。チョコレートにチーズケーキも入っている。
涙ぐみながら、花南が受け取ってくれる。
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