⑥愛弟子のガラス

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⑥愛弟子のガラス

 お土産はほかにもある。  チーズケーキを嬉しそうに頬張っている花南に、潔は例の写真雑誌を差し出した。  ページを開いて、樹社長が入選したことを花南にも知らせる。  花南はひと目見るなり、驚き硬直している。親方の潔がモデルだったり、樹社長が写真を趣味にしてからついにコンテスト入選したことなどなど、思わぬお土産にも衝撃を受けている。 「え、樹さん。ついに入選したの!? 凄い!! しかも親方がモデル!!」 「そうなんだよ~。樹さんがカメラを持ってうろうろしているのは日常だから、モデルにとレンズを向けられても『はいはいどうぞどうぞ』と流していたら、まさかの私がモデルで入賞しちゃったんだ」 「わたしの影響でカメラを始めてから随分経ちますよね……。そうですか。あの樹さんが……」  ケーキ皿を手放した花南が、小樽から持ってきた雑誌を手に取ってまじまじと眺めている。  やがて、雑誌を見ていた視線がちらっと、潔へと向けられる。また写真を見て、ちらっと潔を確かめている。  あ、この子。潔が感じたこと、見抜いている? 感性が鋭い子だと知っているから、潔は心を見透かされているのではないかとヒヤヒヤしてくる。  そんな花南の隣にいる耀平も、彼女が眺めている雑誌の手元を覗き込む。 「ああ、いいですね。遠藤親方らしい渋さが滲み出ていますね。でも切子へと目線が留まるアングルもいいですね」  極々一般的な感想だと思う。だが花南は違う。夫の感想にすぐに頷かない。花南は黙って雑誌を閉じて、潔へと返してくれる。  そして、なにも言わなかった。なにも言ってくれないのが逆に落ち着かない。なにかを感じ取っただろうに。  きっと……。『この写真を見て、なにかを感じて、山口に初めて来る気になったのかな』ぐらいのことは気がついてくれているはず。
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