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「そうですね。うちの工房でも切子の第一人者は花南です。ですが若い職人にも引き継いでおりますよ。親方が仕込んでくださったおかげで、花南から、倉重工房にも切子技術を継承していくことができそうです」
「継承……。嬉しいですね。その切子、見せてください」
小樽から送り出した弟子がいまでは切子の第一人者と言われ、師匠、やっぱり気になる。
耀平がにっこりと嬉しそうに『是非』とショップへと案内してくれる。
「親方はきっと、花南らしい……と仰ってくださるかと。小樽とは異なる作風を固定してくれましてね。金春ガラスと最近は銘打って売っているんです」
「金春ガラス――」
そのショップに入ると、カウンターにいる従業員がまた丁寧にお辞儀をしてくれる。社長の耀平が『お疲れ様です。お客様をご案内中です』と、優しく笑顔を向けている。従業員もよく知っているのか、社長が来たからと急に堅くなったりもしない。さらに笑顔になり和やかに言葉を交わしている。
そんな彼を見て、潔はまた思うのだ。
花南を無理矢理迎えに来たとき。この彼も酷くやつれて険しい目つきをしていたと。『実家でなにかがあったんだ』と悟ったから、義妹の花南が嫌がっても、耀平に託して小樽から返してしまった。
工房オーナーの杏里も、社長の樹も、花南を可愛がっていたから『本当に山口の実家に返してよいのか』と思い悩んでいた。
だが『帰そう』と決したのは、師匠の潔だった。
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