⑥愛弟子のガラス

5/6
前へ
/342ページ
次へ
 耀平がショップスタッフの従業員へ目配せをすると、白い手袋をはめたスタッフが丁寧にケースから出してくれる。  それを潔自ら手に取ってみる。重み厚み、潔が作っているものと異なる。色味もだった。とても新鮮な……そして、懐かしいような。  ガラスを一心に見つめている潔に、黒スーツの耀平がそっと教えてくれる。 「花南が造ったものです。わかるんですね」  最初に気になったグラス。弟子が作ったものだった。  そんな潔の少し後ろで、花南がちょっと緊張した様子で佇んでいた。  師匠の品定めに身構えているのか。金賞を受賞した職人なのに、だった。  振り返った潔も花南を見つめて、微笑む。 「いいね。花南らしさ……、いや、花南ではないと作れないものを生み出したんだね」  緊張で堅い表情をしていた花南の顔がぱっと綻ぶ。 「この薄緑は溶かすガラス素材そのものかな? 玄武かな。そのうえに青いガラスを被せて切子を入れたのか。確かに、これは特徴的だね」  全てを言い当てられたのか、花南が『すごい。正解です』と驚いている。 「県内で採れる玄武岩を原料にガラスにすると、その薄緑色に透き通るガラスになります。それを下地に色を被せて、色()せグラスにして切子を入れています。その色合いがよく売れます」 「それはもう。ここの景色とおなじ色合い。よい思い出になるでしょう。それに――」  潔はそのまま、レジカウンターへとそのグラスをスタッフさんへと差し出す。 「久しぶりに。人が造った切子にわくわくしました。これをいただきます」  また花南が『親方……』と涙ぐんでいる。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2267人が本棚に入れています
本棚に追加