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耀平がショップスタッフの従業員へ目配せをすると、白い手袋をはめたスタッフが丁寧にケースから出してくれる。
それを潔自ら手に取ってみる。重み厚み、潔が作っているものと異なる。色味もだった。とても新鮮な……そして、懐かしいような。
ガラスを一心に見つめている潔に、黒スーツの耀平がそっと教えてくれる。
「花南が造ったものです。わかるんですね」
最初に気になったグラス。弟子が作ったものだった。
そんな潔の少し後ろで、花南がちょっと緊張した様子で佇んでいた。
師匠の品定めに身構えているのか。金賞を受賞した職人なのに、だった。
振り返った潔も花南を見つめて、微笑む。
「いいね。花南らしさ……、いや、花南ではないと作れないものを生み出したんだね」
緊張で堅い表情をしていた花南の顔がぱっと綻ぶ。
「この薄緑は溶かすガラス素材そのものかな? 玄武かな。そのうえに青いガラスを被せて切子を入れたのか。確かに、これは特徴的だね」
全てを言い当てられたのか、花南が『すごい。正解です』と驚いている。
「県内で採れる玄武岩を原料にガラスにすると、その薄緑色に透き通るガラスになります。それを下地に色を被せて、色被せグラスにして切子を入れています。その色合いがよく売れます」
「それはもう。ここの景色とおなじ色合い。よい思い出になるでしょう。それに――」
潔はそのまま、レジカウンターへとそのグラスをスタッフさんへと差し出す。
「久しぶりに。人が造った切子にわくわくしました。これをいただきます」
また花南が『親方……』と涙ぐんでいる。
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