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「よかったな。花南。師匠に商品として認められたってことだもんな」
「だって。ダメなものは割っちゃう師匠だよ。ここで『割りなさい』とか言われたらどうしようかと……。でも、でも、金春の切子グラス、親方のところに行くなんて……もう……わたし……」
従業員の目の前だというのに、涙に濡れる花南を、耀平が微笑みながら抱き寄せている。
師匠とは、やはり父の近いのか。
いや、潔もほんとうは泣きそうだ。
こんな、自分を表現しつつ、商品となる製品を造り出す。教えを守ってくれている。そんな子供の商品に惚れることができるだなんて――。
ただ。また新しい感情が底から湧き出てくるのを感じ始めている。
金春ガラスを手にして『自分らしく生み出す』という情熱に潔は当てられている。
それは瑠璃空を見てはっきりすることになる。
「こちらです」
また耀平の案内で移動をする。
連れられてきたショップの入り口は二面あるのだが、入ってきた店先の反対側出口へと向かっていく。
反対側からショップを出た店頭に、大きなガラスケースの展示物がある。
そこに大型の皿が展示されていた。
「花南の瑠璃空です」
ひと目見て、潔の身体の奥を強く叩きつけるなにか――。
女性が造ったとは思えない大きさのもの。
現物を見る大事さを思い知る。
「これが……、花南の、瑠璃空」
押し寄せてくる。暗い空が、無垢な夜空が。潔に押し迫ってくる。
そしてあぶり出すのだ。
俺はまだ、こんなものを生み出していないと――。
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