⑦妻をそばに

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 通された部屋は、これまた夕日と白浜と海を楽しみながら食事ができる素晴らしい個室だった。それを潔ひとりのために準備してくれていたので、また恐縮しきり……。  だが入室してテーブルをひと目見て、潔は吃驚する。  そこに、マグノリアのキャンドルライトがセッティングされていたからだ。 「これか……。あの時のマグノリア」  大澤夫妻から聞いていた。お二人が初めて倉重リゾートホテルに宿泊した時、夕食のテーブルにこれが飾られていたのだと。 『拙い技術でしか作れなかった不格好なものが、熟練の技で仕上がっていて素晴らしかった』、『当時も、きちんと作り上げられたら、幻想的なムードを生み出せるガラス製品になると思っていた。まさに、確信できたそのものがあった。とても洗練されたものになっていた』。お二人の感動はかなりのものだったようで、小樽に帰ってくると興奮気味に報告してくれた。  その現物を、今夜の食事の席にも花南はきちんと準備してくれていたのだ。  日暮れて薄暗くなっていく海に浜辺。徐々にほんわりと浮かび上がってくる七つの木蓮。  今度は心和ませてくれる。ほんとうにそこに匂い立つ木蓮が咲き誇っているようだった。 「素晴らしい……」  感嘆で言葉が続かなかった。  だが職人魂が働いてしまい、テーブル周りをぐるぐる歩きながら、四方八方から、木蓮の形を眺める。色合いにガラスの流線。どの素材を使い、どのように吹いたのかを確認してしまう。 「これも花南らしいな」  彼女の手癖が、師匠だからこそわかる部分がいくつも確認できた。  しかし、もっとこうすればいい――と口にしたくなるところは、どこにもなかった。  花南の女性らしい感性が溢れているロマンティックな作品だ。人の心を甘く包みこんでくれる……。
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