⑦妻をそばに

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 あんな重々しい夜空の表現をするかと思えば、華やかな演出を生み出す感性も持ち合わせている。  それを、あの当時に、オーナーの杏里と、義兄の耀平は見抜いていた。 「杏里さんも、耀平さんも、どちらも花南の将来を見抜いていたんだね」  潔も興奮しつつも、ようやく用意された席へと腰を落ち着けた。  こちらのホテル。夕食はフレンチコースと懐石コースを選べる。潔は懐石コースを選んだ。  先付けから運ばれてくる。マグノリアの甘やかな灯りを手元に、夜のとばりに包まれていく海をそばに食事を楽しむ。  やがて出てくるガラス食器が全て、自分が仕切ってきた工房『大澤ガラス工房』の製品だと気がつく。 「これ、富樫が吹いた小鉢だ」  三種の先付けを盛り付けているひとつの器が、彼が造ったものだった。  潔が切子を入れた皿も、刺身のお造りを盛り付けて出てきた。  最後のデザートも、潔が造った切子のデザートボウルで出てきた。  職人を大事にしてくれる耀平の心遣いで、大澤ガラス工房から買い付けたガラス食器をどのように料理に使っているか、写真に撮って送ってきてくれる。  潔が造ったガラス食器ももれなく。その画像を見ただけでも喜びを感じたが、これもおなじ、現物を目の前で見るとなおさらに嬉しくなった。  それをまた、自分の食事で眺めることができるなんて。とても贅沢だと思えた。  うん。自分が造った切子のガラスボウルは最高だ。いい輝きを放っている。料理を美しく見せている。  それが、弟子の花南が造り出した甘やかな灯りをそばに、切子の模様が輝いている。弟子と自分のガラスの共演だった。
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