⑦妻をそばに

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 すべての料理を食べ終えようとしていたころ。レストランスタッフしか出入りしていなかった個室に、黒スーツの男が静かに入ってくる。耀平だった。  潔はすぐに笑顔で『素晴らしいお料理と楽しい時間だった』と告げて、『おもてなしにも感激した』と御礼を告げた。  社長である耀平もほっとした顔を見せてくれる。  だが、物腰柔らかい彼がふと哀しげな眼差しに変わった。 「よろしければ、一杯、お付き合いくださいませんか」 「お酒を、ということですか」 「はい。ほんの少しです」  潔は、酒はあまり飲まない。今回も、この料理をいただく際も、アルコール類はお断りしていた。  彼の意図がわからず戸惑っていると、耀平から告げてくる。 「亡き妻について。お話をしませんか」  潔はどきりとする。  やはり彼には、瑠璃空を見た時に見抜かれていたのか。  互いに妻を亡くした者同士。酒を間に、語ってみるのはどうかと持ちかけられているのだ。  この男性は……。  亡き妻の面影を引きずって生きてきた潔が、心の奥で晴れないものを抱きかかえて山口にやってきた。耀平には見抜かれていたようだった。
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