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こちらの夫妻は決裂はしても、強く結ばれた共通の想いが残っていたとのことらしい。
耀平は、裏切られた妻の想いを、丁寧に掬い上げて昇華している。
潔はひとつ問う。自分にも抱いている気もちがあるから。
「耀平さんの怒りは、どこへ行ったのですか」
「消えましたよ。花南と一緒に、螢が飛ぶ川に流しました」
彼が最後に潔に言いたかったことがなにか。ここでようやく理解した。
『親方も怒りをお持ちですよね。ずっと隠してきた怒りが。それが瑠璃空を見て現れてしまったのでは?』。それを案じて、自分がどう打ち勝ってきたのかを告げたかったのだろう。
「花南の金賞作品。螢川も見ていただきたいです。瑠璃空を見て感情を覚えるなら、螢川からは感情を与えられません」
それを見たら、瑠璃空が暴いた気もちを無にできるのか? 潔にはそう聞こえた。
「その作品はどこにありますか。山口の工房、耀平さんと花南のご自宅でしょうか」
耀平がそこで少々言い淀む仕草を見せる。
「航の実父、彼の実家にあります。岡山の料亭です」
まさかの場所に納められていて、潔は驚く。
耀平からすれば、妻と不貞をしていた男の実家に手渡したことになるのだろうから。
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