⑨ガラスに問う

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 秘密を背負った若い女がどう生きていけばいいかガラスに問う。そんな向き合いであって、その秘密を誰にも明かせずに背負っている『しあわせのための嘘』への贖罪。その罪を無垢と化するためにガラスを生み出していたとも思えたのだ。  似てる。そう、なにか、娘のような彼女と通じていると密かに感じていたのは、そこだったのだろう。  突然、愛する家族を失った。  潔は妻をしあわせにすることができなかったこと、守ってあげられなかったことへの後悔と贖罪だ。  だれもが事故だから仕方がない、潔のせいではないと慰めてくれたが、潔自身はそうは思わない。彼女をもっとゆったりとした生活をさせられる環境にしてあげていたらよかった。自分が稼ぎもそこそこの駆け出し職人だったから、彼女が家計を支えるために奔走してくれていた。せっせと節約のために、あちこちのスーパーへと買い出しに回る日々を過ごさせてしまった後悔。  彼女を車で跳ねた男を最後まで追い詰めることができなかった後悔。男を追い詰める気力は二年で途切れた。そんなことよりガラスを吹け――と彼女が夢枕に立ったからだ。いや、潔の疲れた心が『ガラスを吹く日々に戻りたい』からと、彼女の言葉と姿を心理的に借りてしまったのかもしれない。そう思えることもあるから、余計に罪を許してしまった贖罪もあるのだと思う。  ガラスに向き合うときは、どす黒い気もちを携えることは決してすまい――と誓っていた。  彼女が愛してくれたガラスだから、決して黒いしみは残さない。  完璧なものだけを残す。他は粉砕する。だから割り砕いてきた。
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