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「いいから、いいから。若い俺に任せて」
「そんなに年寄りじゃないから」
「はいはい。助手席で寝ても怒らないから」
スーツ姿が凜々しい航が、花南の背中を強引に押して前に進もうとしている。
ほっこりお母さんを、凜々しい青年がからかうようにして連れ出していく。
そんな妻と息子の出発を、耀平も楽しそうに笑って見送ろうとしている。
「道中うるさいと思いますが。……航がいけば、あちらのお祖母様と叔父様も喜ばれると思いますので、連れて行ってください」
「あ、そういうことになるんですよね……。うっかりしていました」
「お気になさらず。すべて、互いの心中は収まりついておりますので。花南の『螢川』をご堪能ください」
不義の男の実家。しかし息子の血縁者がそこにいる。
航が楽しそうにしているのは、お祖母様に会えるから? そうとも思えた。
そしてきっと、花南は倉重とその不義の男の実家を繋ぐ者なのだろう。
「では親方。またのお越しを。ここからまた楽しい旅を続けてください。お気を付けて」
耀平だけがここに残る。
仕事がある夫で父だからと思いたいところだが、彼は倉重の男としての筋を通そうとしているようにも見えた。
「では、出発しますよ。途中から高速に乗りますからね」
イマドキの青年が乗り回しているよう黒いSUV車。運転席にかっこよく眼鏡の青年が乗り込み、助手席にはパンツスーツ姿で整えた花南が乗る。潔は後部座席に案内された。
「カナちゃん。お財布持った?」
「持ったわよ!」
「スマホも持った?」
「持ってるって!」
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