日没

1/1

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

日没

 柔肌を見せる肩に、さらさらと零れ落ちる艶やかな髪は、まばらに隙間を作る。その間から、黒目がちな眸を見せる彼女はまだ本当の社会を知らず、未来は素敵な世界に決まっていると信じて疑わない少女のように、無邪気な声で訊いてきた。   「ねえ、そこから何が見える?」  沈んだばかりの太陽から零れた優しい光は、地球の輪郭をなぞるように左右へと伸びる。  球体であることを知らしめるかのように、どこまでも続く光の曲線は、まるでティアラのようだった。   「夕焼けが見える。それと……」    その少し上で、小さな綿を散りばめたような雲は、夕陽の赤が重なり鮮やかなピンク色を発していた。  淡くなる頃には、一かけらも無く風に流された。  無地となった空は、くっきりと地球をシルエットに塗りつぶし、山吹色、そして宇宙色へと層を重ねた。  一切のムラが無いマチエールは絵画のようであり、高解像度で撮った写真のようでもあった。   「じきに夜が来る」  僕はそう呟いた。  夕陽が織りなす美しき時間は、すぐに終わる。儚いが故に、目に焼き付けておきたいと、瞬きも忘れ見続けてしまう。  微かに残っていた光の帯は、中心へと吸い込まれるように消えていった。  闇が訪れた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加