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日はまた昇る
下界を見つめる彼女が、母からはぐれ知らない土地で独りぼっちになってしまった幼女のように、怯える声で訊いてきた。
「どうして、地上は赤いの?」
下へ向かって差す彼女の指先を辿ると、真っ赤に光る場所がいくつも存在した。
オレンジ色の光の玉が、放物線を描き飛んでいく。
それは一つではない。無数の玉が、相互に飛び交っている。風に乗った破裂音や銃撃音が、微かだが耳を掠めた。
「あそこへは、行かないほうがいい」
僕は、それだけ言って、空を見上げた。
「見てごらん。宇宙は、綺麗だ」
彼女の気を逸らそうと、空の話をしようと思った。でも、彼女は地上から目を離さない。
赤い光は広がっていた。飛び交う玉も数が増えている。
一カ所だけではない。
彼女は、両手の指を絡め組んだ手を胸の前に引き寄せ、祈るように、その行く末を見つめていた。
やがて、光の玉は無くなり、赤い光は消えて行った。
「どうなったの?」
僕は何も言えなかった。
背中に当たる優しい温もりに気付いた。
日の出だ。
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