【2−2】

3/3
前へ
/25ページ
次へ
「えーと、何の変哲もない黒髪をそんな風に言ってくれて、ありがと」 「あ? 全て本心だが? まぁ、いい。おい、ラスト一分だ。首を真っ直ぐに伸ばせ。仕上げをする」 「はーい」  言われた通りの体勢で身体の力を抜きつつ、薄目で恋人を見上げる。  でもさー。俺の髪をお前はいつも褒めてくれるけど、俺、お前の濃茶色の髪のほうが好きだよ? あと、髪色と同じ色の眼鏡もさ、いい色だよなー。すげぇ似合ってる。  真下から覗き見てる恋人の顔は、いつもと違う角度。最近、眼鏡のフレームをダークブラウンのハーフリムに変えた恋人は、理知的な印象の目元に落ち着いた清廉さが加わった気がする。  カッコいいなぁ。出会ってから二十年以上になるのに、いつまで経っても見飽きないんだ。  綺麗なカーブを描く頬のラインを目でなぞっては、ぼうっと見惚れてしまう。好きって感情は、本当にすごい。 「慎吾」 「なぁにぃ? えっ……んぅっ」  あれっ? キスされてる! なんで? 「そんな可愛い顔でじっと見るな。うっかり襲いたくなる」 「……っぁ……んっ」  もう襲ってるよ! 不意打ちで! 「風呂、行こうか」 「うん」  襲われるのは俺も望むところだから、頬にキスをくれながら場所移動を提案してきた相手と一緒に、さくっと立ち上がる。  1LDKの角部屋のリビングから脱衣所までは、ほんの数歩。その数歩の間も惜しむようにキスを交わし合う俺たちって、絶対にラブラブの上級者だよな。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加