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「えーと、何の変哲もない黒髪をそんな風に言ってくれて、ありがと」
「あ? 全て本心だが? まぁ、いい。おい、ラスト一分だ。首を真っ直ぐに伸ばせ。仕上げをする」
「はーい」
言われた通りの体勢で身体の力を抜きつつ、薄目で恋人を見上げる。
でもさー。俺の髪をお前はいつも褒めてくれるけど、俺、お前の濃茶色の髪のほうが好きだよ? あと、髪色と同じ色の眼鏡もさ、いい色だよなー。すげぇ似合ってる。
真下から覗き見てる恋人の顔は、いつもと違う角度。最近、眼鏡のフレームをダークブラウンのハーフリムに変えた恋人は、理知的な印象の目元に落ち着いた清廉さが加わった気がする。
カッコいいなぁ。出会ってから二十年以上になるのに、いつまで経っても見飽きないんだ。
綺麗なカーブを描く頬のラインを目でなぞっては、ぼうっと見惚れてしまう。好きって感情は、本当にすごい。
「慎吾」
「なぁにぃ? えっ……んぅっ」
あれっ? キスされてる! なんで?
「そんな可愛い顔でじっと見るな。うっかり襲いたくなる」
「……っぁ……んっ」
もう襲ってるよ! 不意打ちで!
「風呂、行こうか」
「うん」
襲われるのは俺も望むところだから、頬にキスをくれながら場所移動を提案してきた相手と一緒に、さくっと立ち上がる。
1LDKの角部屋のリビングから脱衣所までは、ほんの数歩。その数歩の間も惜しむようにキスを交わし合う俺たちって、絶対にラブラブの上級者だよな。
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