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序章
夕暮れの河原。
煤けたドラム缶の中で赤い炎が爆ぜている。
燃えながらゆっくりと形を失っていくぬいぐるみを見ながら、私は大きな溜息をひとつ、吐いた。
「また、駄目だった……」
独りごちて逢魔時の空を見上げる。ゆっくりと夕闇に夕焼けの橙が侵食されていく。千咲と二人でこの河原でぬいぐるみを燃やした時もこんな空の色をしていた。けれど、今、千咲は私の隣にはいない。
私にとって生まれて初めて出来た友人はある日突然消えてしまった。家出や誘拐などではなく、文字通り【消えて】しまったのだ。
【ひとりかくれんぼ】
それが千咲が消えた原因だ。初めて千咲と話した時からずっと憑いていたものを呼んだ元凶。
────何とかできなかったのか。
────何とかすべきだった。
千咲が消えたあの日から、私はずっと後悔している。
救えなかった。
彼女の笑顔を守れなかった。
彼女が抱える仄暗いものを軽視していた。
もっと私が彼女に踏み込んでいたら、今も彼女は私の隣にいてくれたのだろうか。
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