第一章

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「そうだな、このまま【ひとりかくれんぼ】を続けても埒が明かないだろう。雲を掴む様なものだ」  雲を掴む...か。確かにその通りだ。もっと情報が欲しい。インターネットや文献には膨大な情報があるけれども嘘に塗れ過ぎていて、その中からほんのひと握りの真実をみつけようなんて、それこそ雲を掴む様なものだ。 「けれど、私には、どうしたらいいのか、わからないんです」  ふむ...と塔矢は私から目線を外した。白衣のポケットから煙草を取り出し、火を点ける。少しずつ短くなっていく煙草を見つめて、塔矢の次の言葉を待つ。  千咲が住んでいた部屋は既に解約されて、今は別の人が住んでいるようだ。千咲が消えたあの日に入って以来、足を踏み入れることは無かった。 「そうだ」  灰皿に煙草を押し付ける塔矢が声を上げた。 「今年から俺の講義を受けてる奴に面白いのがいるんだよ。明日、また来るといい。そいつを呼んでおくよ。」 わかりました、と返事をして、私は塔矢の研究室を後にした。
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