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八話
おっかないなあ、そんな目で見ないでください!
貴方がエドガー氏に近付いたのは、全部計画の内だなんて言ってないじゃないですか。
毎日同じ場所に座ってればスタンホープ伯爵家の紋章入り馬車が通る日時の把握は容易い。
貴方のお母上の命日は、エドガー少年の救貧院訪問の日取りと重なっていました。
貴方はただ馬車が通る時刻に街角に座っていればいい。
聡明で心優しいエドガー少年は必ず馬車を止め「どうしたの」と下りてくるはず、そこに付け込むのです。
ええ、ええ、貴方は悪くありません。ちっとも悪くありません。
ひもじかった。
虚しかった。
悲惨な身の上話で同情を買いさしのべられた手をとれば、ドブ臭いイーストエンドとおさらばできるのです。貴方はエドガー少年の良心に賭け、見事勝利しました。
唯一にして最大の誤算は、エドガー少年の貴方への傾倒ぶりを侮っていた事です。
決定的な破局の訪れは結婚式前夜。
その日、スタンホープ伯爵は家にいました。数日前からエドガー氏は外出を禁じられアトリエにこもっていました。挙式の最中に粗相を働いちゃ台無しですもんねえ。
貴方も結婚式に出席する事になってましたね。
肩書は新郎の親友、でしょうか。エドガー氏がそれを望んだかはわかりません。
寝る支度をしている時、軽いノックが響きました。扉を開けた廊下には執事が控え、「旦那様がお呼びです」と告げました。
内心またかよと呆れました。
しかたなく準備を整え書斎に赴けば、伯爵は赤々と燃える暖炉に炭をくべ、一人掛けのソファーにふんぞり返っていました。
「エドガー様の結婚前夜なのに、お休みになられなくてよろしいのですか」
「仕事は済んだ。気分転換がしたい」
「御意に」
貴方は暖炉の前に立ち、赤々と火影が照らす部屋の中、ガウンを脱いで裸身をさらしました。
「後ろを向け」
パチパチ爆ぜる炎を心を殺し見詰めます。伯爵は貴方の手をシルクのハンカチで束ね、膝裏を蹴って跪かせました。
伯爵がソファーに深く沈み込み、懐中時計の金鎖を手繰って蓋を開きます。
「三分」
「はい」
貴方は跪いたまま前傾し、伯爵の股間に頭をたれ、萎れた陰茎を咥えました。手は使えません。
「んっ、む」
犬のように舌を出し舐め上げ、亀頭を夢中で頬張り吸い立てれば、だんだんと膨らんできます。
「ぁっ、あぐ、痛いです旦那様」
「口を利くな。舌を使え」
「申し訳ッ、ありません」
伯爵が貴方の股間を裸足でぐりぐり踏み付け、口淫を妨げます。嗜虐の愉悦に酔った醜悪な表情。
「ふぅ、ンぐ」
倒錯した情事の最中、鼓膜と耳朶を縫い刺す規則正しい秒針の音が焦燥を炙ります。
体重を支える膝が擦れ、縛り上げられた両手がもぞ付き、喉を圧迫する亀頭に息苦しさが募りました。
「はッ、はッ」
伯爵の攻撃は陰湿でした。もたげ始めた股間を踏み躙るだけじゃ飽き足らず、乳首を抓って引っ張り、あるいはねちねち捏ね回します。
かと思えばだしぬけに頭を押さえ込み、喉の奥深くを突いてきました。
「慈悲を注いでやる。零すなよ」
「有難き、幸せ、ッは」
くすんだ赤毛を鷲掴み、口内に射精します。
嘔吐したら最後酷い折檻を加えられるので、生臭く青苦い体液を無理矢理飲み下しました。伯爵がもったいぶって蓋を開き、文字盤を一瞥しました。
「過ぎたぞ」
「そんな……うぐっ!」
「口ごたえか。仕置きだな」
諦念。
瞠目。
「……明日はエドガー様の結婚式です。体に傷を付けるのはおやめください」
「当たり前だろ」
さも心外そうに唸った伯爵が貴方の顔を手挟み、一度果てて萎びた陰茎へ導きました。
「出すぞ」
何が、なんて馬鹿げた質問はしません。これをするのは初めてじゃありません。キツく目を瞑り、おずおずと口を開け、陰茎の先端を含みます。直後に伯爵が痙攣し、勢いよく尿が迸りました。
「ん゛ッ、ん゛」
塩辛い液体が口に満ち溢れ、喉を滑り落ちます。後から後から大量に……直接注がれる尿を必死に嚥下しながら、貴方はこれ位なんでもないと自分を慰めていました。
ガラス片が混入したスープを飲まされるよりずっとマシです。
伯爵は貴方の頭を掴んで放尿したのち、スッキリした表情で離れていきました。
「けはっ、かほっ」
こらえきれずにえずきます。とはいえ、一滴残らず飲み干したのはあっぱれです。
「大変美味しゅうございます、旦那様」
嘔吐感をごまかし媚びます。喉と胃がいがらっぽくむかむかしました。
「浅ましい顔だな」
伯爵が優越感に酔い痴れ頷きました。それから伯爵は、本格的に貴方を犯しにかかりました。
ジンを血で割った絵具は飲めたのに、何故伯爵の小便はクソまずいのか。
貴方は床に突っ伏し、この苦痛な時間が早く終わってほしいとただそれだけを祈っていました。
「ぁッ、ンぁぐ、ぁあっ」
五十代後半の伯爵は早漏なので、目を瞑り耐えていれば十分ほどで終わります。終わるはずです。
「お目付け役の役目もろくに果たせんっ、本当に使えんヤツだなお前はっ」
「申し訳ッ、っぐ、ありませんっ」
「所詮下賤の出だ、貧民窟上がりの使用人に期待したのが間違いだった」
「旦那様ッ、あぁっ、んっぐ、お許しを、っぁあ」
乱暴に突かれたせいであちこち擦り剥けて痛いです。貴方は泣いて謝り、物欲しげに媚び諂い……ドアの隙間から凝視を注ぐ、鋭い眼光に気付きました。
ゆっくりとドアが開き、逆光を背負ったエドガー氏が無表情に立ち塞がります。
「何をなさってるんです、お父様」
抽送が止まります。
伯爵は狼狽しました。
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