君に捧ぐ歌

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大好きな野っ原を駆け抜けると 今まで大騒ぎしていたコオロギやスズムシが一斉に鳴き止んで あちこちから飛び出してくる。 僕は少し愉快になって、 わざとがさがさと大きな音を立ててそこら中を走り回る。 空には静かな三日月。 ほんわかと野っ原を照らしている。 草の上に思いっきり手足を伸ばして寝転ぶと、 夜露が草の()からきらきらと落ちてきた。 そのひとつひとつに三日月が映っている。 これをみんな拾って行けたらいいのになぁ。 そっと(すく)ってみても、 綺麗な球はその場で形を崩して僕の手を濡らすだけだった。 僕はがっかりして、そのまま寝転ぶ。 たちまちコオロギたちがまた賑やかに鳴き始めて、大合奏になる。 見上げた三日月は薄い雲に隠れて、野っ原が一瞬暗くなる。 すると今まで影の薄かった星が一斉にちかちか(またた)き始めた。 「わぁ!綺麗だなぁ!」 あれが掴まえられたらいいのに。 思いっきり手を伸ばしても、僕の短い手は おいでおいでと風で手招きしているススキの穂先までも届かない。 僕はしょんぼりとして立ち上がる。
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