第一章 家出少年と配達人

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 担任から連絡がいって、それは両親の知るところとなったが、 「学校へ行っていないんですって?」 「うん。でも、明日から行くよ」  それで会話は終了した。実際にはその翌日も、結人は学校へは行かなかったのだが。  誕生日の一件から、両親との会話は目に見えて減っていた。あの日から結人は父に携帯を預けなくなっていたが、それに対して父も何も言わなかった。  両親が結人の扱いに困っているのは明らかだった。そんな両親の姿は、結人を自己嫌悪に(おちい)らせると同時に苛立たせ、傷つけもした。  俺を叱らないのは、本当の子どもではないからだろうか。二人は俺のことを、もうあきらめてしまったのだろうか――  クラスの仲間たちとの間にいつも感じていた、目に見えない隙間のようなもの。結人はそれを、両親との間にも感じ始めていた。  一度も学校へ行かないまま、二学期の最初の一週間が終わろうという頃。結人は本屋へ行き、少し迷って北海道のガイドブックを買った。  そしてその日の夜。クローゼットの奥から中学の修学旅行で一度使ったきりのボストンバッグを引っ張り出すと、結人は身の回りのものをそこに詰め込んだ。  父は毎朝、結人よりも早く家を出る。母も週に三日ほど、友人が経営しているレストランの手伝いをしていて、その日はやはり結人よりも早く家を出る。  だから九月七日のその日、結人はいつもと変わりのない様子で――むしろ吹っ切れてすっきりしたという顔で――二人を見送った。 「心配かけてごめん。今日は、ちゃんと学校へ行くから」  結人は大嫌いな嘘をついた。だけど、父と母の背筋はぞくぞくすることはないし、腕に鳥肌が浮くこともないのだ。  自室に戻ると結人は、机の上に一枚の便箋(びんせん)を置いた。 『色々と我がままを言って、困らせてごめんなさい。今まで育ててくれてありがとう。俺は、自分が自分らしく生きられる場所を探しに行きます』  ひと晩考えたもののいい文章が浮かばず、結局は頭に浮かんだことをそのまま書くだけになった。文才がないのは今更だ。  便箋の上には携帯電話も置いた。これはかなり抵抗があったが、『今』を断ち切るためにはこれがあってはいけないと自らに言い聞かせた。  携帯があれば自分は、そこから伸びる糸がどこかへ繋がっているかどうか、いつまでも確かめようとしてしまうだろうから。  ぱんぱんに膨らんだボストンバッグを担ぐと、結人は家を出た。  文字通り、家出をしたのだった。
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