第一章 家出少年と配達人

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第一章 家出少年と配達人

 雲ひとつない青い空。 「気持ちいい天気だねー」と女性の声が、ベビーカーを押す音とともに通り過ぎていく。  全然、気持ちよくない。  (ゆい)()の目には、ただ青いペンキで塗り潰しただけのように見える。何でこんなに青いんだ。空気を読め、と言ってやりたい。  結人は目を閉じ、今の自分の心境に合う白っぽい灰色に霞んだ空を想像しようとした。けれどもそれは、すぐにセミの声に打ち壊される。  もう夏休みも終わり、九月に入ったというのに。最後のあがきとばかりにジージーミンミン、あちらこちらで節操(せっそう)もなく鳴きまくっている。  泣きたいのは俺のほうだ。目を閉じたまま、結人は(ひと)りごちる。  気分は最悪だった。なぜこんなことになったのか。  きっかけは九日前。八月二十九日の、結人の十六回目の誕生日。  でも――今思うと、前日の母の言葉からして、あまり縁起はよくなかったのだ。
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