第一章 家出少年と配達人

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「明日、父さんと一緒に法事に出ないといけないの。知り合いの十七回忌でね」  誕生日の前夜、母が言った。  よりにもよって俺の誕生日に法事かよ。しかも知り合いの十七回忌って。出るか、普通?  そう思いはしたものの、結人ももう家族で集まって誕生日を祝ってもらいたい年頃ではない。バースデーケーキを囲んでハッピーバースデーを歌うのはいい加減に勘弁してほしいと思っていたので、それがなくなるのならむしろ大歓迎だった。  ただ、プレゼントはちゃんともらえなければ困る。今年の誕生日、結人は念願のスマートフォンを買ってもらう約束をしていた。  仲間内で――いや、クラスの中でいまだにガラケーを使っているのは結人ぐらいのものだ。結人はそのことで、これまでかなり恥ずかしい思いをしてきたし、LINEのやりとりに一人加われないことで、かなり寂しい思いもしてきた。  その現状を切々と両親に訴え続け「それじゃあ、誕生日になったらな」という言葉をようやく父から引き出せたのが三ヵ月前のこと。  それから結人は、毎日カレンダーにバツ印を書きながらじっとその日を待ち続けた。誕生日になれば、ようやくこの状態から抜け出せる。そんな希望を抱いて。  誕生日の当日、両親は夕方の五時を少し過ぎた頃に帰宅した。  母の手にはケーキの箱があった。ただし、中はバースデーケーキではなく、フルーツがたくさん入ったロールケーキ。喪服でバースデーケーキを買うのは、さすがに少々抵抗があったのかもしれない。  でもケーキなどどうでもいい。着替えのため寝室へ入ろうとしていた父の背中を結人は追いかけ、尋ねた。 「父さん。プレゼントは明日、買いに行くんだよな?」  うん? と父は結人のほうを振り返り、 「ああ、プレゼントならもう買ってある」 「え?」 「先に渡しておこうか。取ってくるから、待ってなさい」  結人を廊下に残し、父は寝室へ入っていった。  もう買ってある? 結人の胸に疑問と不安がじわりと(にじ)む。自分が一緒に行かずに、どうやって機種を選んだのだろう。  五分と経たずに戻ってきた父は、家電量販店の袋を結人に差し出して「十六歳の誕生日おめでとう」と言った。  嫌な予感を覚えながら、結人は袋の中を探る。  案の定、出てきたのはスマホではなかった。 「……何だよ、これ」
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