第一章 家出少年と配達人

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 教師をしている父の頭は、持論でがちがちに凝り固まっている。父はそれを、信念と呼ぶ。  たとえば父は、近頃の若者たちが起こす身勝手な犯罪や、陰湿ないじめの原因がインターネットやSNSの普及にあると主張する。  それはあながち間違ってはいないのかもしれない。けれど、だからといって息子にスマホを持たせなかったり、ネットをさせないように夜間に携帯を没収するのはどうかと思う。  皆と話題を共有できないのはもちろんのこと、遊びの連絡が結人にだけ回ってこないということもしょっちゅうだった。自分以外の友人たちがそろって駅前のカラオケ店に入って行くのを見た時の気持ちは、「切ない」なんていう言葉では到底表現しきれない。 「あー、ごめんごめん。結人がLINEできないことすっかり忘れてた」 「でもさあ、どうせメールしても、夜は親父さんにケータイ没収されてるんだろ」  後日、学校でそのことを尋ねると、あっけらかんとそんな返事が返ってくる。苦笑をほのかに唇の端に滲ませながら。  そんなふうにして、息子が確実に孤立しつつあるということを、父は本当にわかっているのだろうか。  ネットを禁止させたいのなら、クラス全員に徹底させるくらいのことをしないと何の意味もない。自分の息子にだけそれを()いたところで、かえって孤立を招くだけということに、なぜ父は気づかないのだろう。 「父さんは何もわかってない。俺が毎日、どんな思いで学校に通っているかなんて。まるでわかってないんだ」 「今は夏休みじゃないか」  冷静に言葉尻をとらえてくる父に、絶望的な怒りと失望を感じた。  確かに今は夏休みだ。だからこそ、結人以外のメンバーの間ではいくつもの遊びの計画が立てられているはずだった。
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